「わぁ!?びっくりした」
後ろから声を掛けてきたのは近藤だ。
辛そうに笑っているのが分かる。
中からは既に笑い声が聞こえていて、美海の声はかきけされていた。
「歳はさ、昔はあんなんじゃなかったんだ。土方歳三は鬼なんかじゃなかった。俺がそうさせてしまったんだよ」
「…近藤さん?」
近藤に手招きされ、美海は縁側に移動した。
近藤とこうして二人で話すのは初めてかもしれない。
「どうぞ」
「すいません」
美海は近藤の隣に静かに腰を掛けた。
「歳はさぁー…」
そう言いながら近藤は体を後ろに倒した。
冬の空気は乾いていて、空に近藤の声が響いた。
「昔は、まぁ初めに俺と会ったときは昔話したみたいにつんけんしてたけど、昔は愛想が良い奴でね」
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近藤は目を瞑って思い出すように話している。
「あ。今、美海くん、嘘だって思っただろ」
「はい」
即答する美海に近藤は苦笑いした。
「本当なんだよ。皆には歳さんって呼ばれててね。皆に慕われてた」
歳さん…。
あの時も誰かがそう呼んでた。
「ふーん。まぁ、仮にそうだったとしても、どうして今」
美海の言葉に近藤は眉を歪めた。
「俺のためなんだ。歳が鬼になったのは」
「近藤さんの?」
「あぁ。薄々気づいていたとは思うが、俺から辛い命令や、処罰を与えたことは今までに一度たりともない」
「まぁ。確かにそうですね」
美海は頷いた。
あの時も、あの時もそうだ。
「嫌な命令は歳が全て行う。そうすれば、副長は嫌われても、局長の俺は皆の優しい局長でいられる。
歳はそうして自分を犠牲にすることによって、俺を立てていてくれたんだ」
土方さん……。
今まで冷徹に事を済ませてきた土方を想像するが、そういう裏があるなら、土方のあのポーカーフェイスが歪んでいたように思えてきた。
愛想の良い歳さんから鬼の副長へ。
どんなに辛かったのだろう。
「歳は自分から嫌われるように振舞ってきたんだ。
だから歳を良く思わない奴もいた。だけど、だから今まで新撰組はやっていけた。
いつも俺は思うよ。俺は逆の立場だったらあんなことできただろうかと」
もしかしたら近藤さんが鬼のようになっていたのかもしれない。
誰かが犠牲に。
でもだからこそここまでこれた。
皮肉な話だ。
「歳はいつも俺や新撰組を一番に考えてくれていた。
なのに俺は、一番の友の歳を苦しめてばかりだった。
歳を見る度に胸が苦しくなるんだ」
近藤さん…。
お互いを大切に思っているから、お互いが苦しい。
本当に大切だから。
「でも近藤さん」
「ん?」
「土方さんは辛かったかもしれないけど、苦しくはなかったと思いますよ」
近藤はわけがわからないと言いたげにポカンと口を開けている。
「そりゃあ、隊士にきつく当たったり、処罰を与えたりすることは鬼だけど鬼じゃない土方さんには辛かったかもしれませんが、大好きな近藤さんのためと思えば苦しくはなかったと思います」
「美海くん…」
「近藤さんがいたから出来たことだし、近藤さんと過ごせることが、役に立てることが、何より土方さんの喜びであり、誇りだったんじゃないでしょうか」
近藤の目にはジワジワと涙が溜まっていった。
やりたい放題やって、仕事だってサボったりして、どうしようもない俺だけど、ずっと側にいてくれた歳。
いつもいつも、
「近藤さん。ったく仕方ねぇなぁ」
そう言って小さく笑う。
「だって土方さんは」
あぁ。もうやめてくれ。
「近藤さんが大好きだから」
近藤の目からは涙が流れ落ちて、床に染みを作った。
しばらく近藤と過ごした後、美海は宴会場へとたどり着いた。
既に酔いつぶれている永倉と原田。
そして斎藤の隣にはちょこんと市村がいる。
珍しく沖田も飲んでいたようだ。
「鉄くん。起きたの」
「あ!はい!」
すっかり市村は目が覚めたようで、ハキハキと答えた。
「あ。近藤さーん。一緒に飲みましょう。私注ぎますよ」
沖田がブンブンと手を振っている。
近藤は頷くと、寝転がっている原田、永倉を跨いで沖田の元へ行った。
ガラッ