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domoto63

「蓮形寺くん

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「蓮形寺くん

「蓮形寺くん、会社には慣れたかね」

と社長が話しかけてくるのに、はい、と返事をする。

 

 あ、ありがとうございますっ、と唯由は美菜に感謝した。

 

 うっonline stock broker singaporeかり社長室のフロアまで用もないのに上がってしまい、社長と出くわしただけなのだが。

 

 美菜が一階と言ってくれたおかげで、唯由がボタンを押すために、そこにいたかのようになったからだ。

 

 途中のフロアで扉が開き、唯由の同期の男性社員、平田が乗ってこようとした。

 

 社長に気づき、ビクッとする。

 

「まあ、乗りなさい」

と社長が笑顔で言い、平田は怯えながら乗ってきた。

 

「君は新入社員かね」

 

「は、はい」

 

「会社には慣れたかね」

 

「はいっ」

 

 社員と交流をはかりたい社長からの質問の嵐に平田はやられていた。

 

 側に来た美菜がぼそりと、

「イケニエ」

と言う。

 

 ぷっと笑ってしまった。「大野さん、ありがとうございます」

と小声で言うと、いやいや、と美菜は言う。

 

「そもそも、あんたが最初に冷静に対処したから、調子合わせられただけだから。

 

 間違って上がってきたの、顔に出さずに頭下げて、すっと避けたじゃない。

 

 さすが、研究棟のヤンバルクイナを入社早々捕まえる奴は肝がわってるわ」

 

 ひっ、と唯由は固まる。

 

 三人とも一階で降りていったが、唯由は三人に頭を下げ……

 

 いや、平田には下げなくてよかったのだが、一緒にいたので下げ、

 

 そのままエレベーターに乗って上に上がっていく。

 

 振り返り、ふっと笑った美菜から逃げるように。

 

 

 

 雪村さんは、会社の皆さんにヤンバルクイナとか呼ばれていたのか。

 

 ……希少な生物だからかな。

 

 そう思いながら、唯由はエレベーターの中から急いでメッセージを送った。

 

 そういえば、蓮太郎を褒めてないままだと気づいたからだ。

 

「すみません。

 いつもなんだかんだでお褒めいただいていたのに、私、雪村さんを褒めないままで。

 

 思いついたら、すぐ送りますね」

 

 しばらく仕事をして、スマホを見ると、

「いや、別にいい。

 俺にいいところなんて、きっとない」

というメッセージが入っていた。

 

 ……珍しく謙虚だな、と唯由は思ったが、蓮太郎は落ち込んでいるだけだった。

 

「そんなことないです。

 ありすぎて、答えられなかったくらいですから」

 

 そう送ると、そのまま返事はなかった。

 

 なんだろう。

 なにか怒っているのかな、と思いはしたのだが。

 

 忙しかったので、そのあとはもうスマホを見ることはできなかった。

 

 

 

「蓮形寺くん、仕事はもう慣れたかね」

 

 帰り際、エレベーターホール近くで社長と出くわして、そう言われた。

 

 それ、朝も訊かれました、と思いはしたのだが。

 

 社長、新人みんなにそう言って歩いてるんだろうな。

 

 他に会話、急に思いつかないのに、一生懸命話しかけてくれてるんだろうな。

 

 ありがたいことだ、と唯由は思っていた。

 

 実家の関係で会社の偉い人たちはよく見るが、どんな立場になっても謙虚な人もいれば、横柄な人もいる。

 

 いい社長でよかった、と唯由が思ったとき、いきなり、横にあったエレベーターが開いた。

 

 蓮太郎が現れる。

 

「本当に早く終わったぞ。

 さあ、帰ろう、蓮形寺」

と大股にやってきて、唯由の手をつかんだ。「ヤ、ヤンバルクイナがっ」

と唯由は思わず、叫んでしまう。

 

 なんで研究棟からここまで来たんですかっ、と言いたかったのだが。

 

 頭の中で、滅多に見かけない絶滅危惧種なのに、こんなところまで出てくるとかっ、と思っていたせいで、口からついて出てしまったらしい。

 

「ヤンバルクイナ?」

と蓮太郎と社長に同時に訊かれ、

 

 すみません、すみません。

 なんでもございません、と唯由は呪文のように繰り返す。

 

 ぺこぺこしていると、頭の上から聞こえてきた。

 

「蓮太郎、なにしにここまで来たんだ」

 

 社長が蓮太郎に訊いているようだった。 やはり、親戚なのか。

 

 同族経営だって言ってたもんな、と唯由が思ったとき、

 

「俺の愛人を迎えに来たんだ」

と蓮太郎が言った。

 

「愛人?」

 

 そう、と蓮太郎は唯由の肩を抱き寄せかけて、何故か手を離し、少し距離を置くと、唯由を手で示した。

 

「愛人だ。

 じいさんにもよく言っておいてくれ」

 

……ずいぶん、よそよそしい愛人だな」

 

 社長はそう言ったあとで、唯由に深々頭を下げてきた。

 

「入社早々、蓮太郎が迷惑をかけているようで」

 

「いっ、いえっ、そんなっ。

 とんでもないですっ」

と唯由もペコペコ頭を下げる。

 

 離れたトイレから出てきた美菜が蓮太郎に気づき、

「うわっ、同期なのに久しぶりに見た~」

と呟くのが聞こえてきた。

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