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domoto63

俊春にソッコーうつる。

俊春にソッコーうつる。

 

 なにゆえ、それを発した本人に問わぬのか?

 

 注目を浴び、俊春は気恥ずかしそうに廊下の板敷きにを落とし、さらに気恥ずかしそうに口をひらいた。

 

「通じがよくなる、と」

 

 ナイス、俊春。さすがである。植髮過程 めっちゃ遠回しの表現に、内心で快哉を叫んでしまった。が、それはかなりちいさかった。かれにもっともちかくにいる永倉とおれ、それから海江田にしかきこえなかったのではなかろうか。

 

「なーんだ、くそをひるってことか」

「くそをひりまっるてことじゃなあ」

 

 その二人の身もふたもない要約がジワる。

 

 一瞬、沈黙がおりた。同時に、霊が通ったのか、ラップ音が響いた。ドキッとしてしまう。

 

「馬鹿なことをいわせるんじゃねぇよ、主計っ!」

 

 そして、副長に理不尽にも叱られてしまうおれであった。

 

 

 干し芋も堪能し、そろそろ海江田がかえるという。そういえば、かれは一人でやってきたという。

 

 びっくりである。さすがに西郷も、それは危ないから、と苦言を呈した。けっこう、自分も護衛がすくないのにである。それは兎も角、その西郷の心配を、海江田は笑って応じた。

 

「軍議んこっを思いだすとち腹立たしゅうなっ。そうなっと、ちかっにおっ者にあたってしまうかもしれもはん。そんた、おいどんが刺客に襲わるっことよりも赦せんこっじゃ。じゃっで、おいどんな一人の方がよかとじゃ。じゃっどん、どうやらおいどんな自分の腕を過信しすぎちょったようじゃ。これからは、注意すっことにすっ」

 

 体育会系気質のわりには、部下には気をつかっているんだ。

 かれの意外な一面である。

 

「そいやったら、おいどんが送りもんそ」

 

 半次郎ちゃんが申しでた。が、後輩には頼りたくないらしい。

 

「おいどんな、に護らるっほど弱うはなか」

 

 ソッコー一蹴してしまった。

 

「それでしたら、わたしがまいりましょう」

 

 つぎに申しでたのは、俊春である。

 

「だったら、おれもゆこう」

「えっ?土方さんが?」

「えっ?副長が?」

「ええっ?副長がですか?」

 

 意外すぎる副長の立候補に、永倉と島田とおれの不信感もあらわな問いがかぶった。「ちょっとまちやがれ。なにゆえ、おれがゆこうといったらかような反応をする?」

 

 副長は、気分を害したようである。

 

 が、副長の意図はすぐによめた。厳密には、副長ならそうするだろうなと気がついた。

 

 俊春がみずから申しでたこととはいえ、海江田と二人きりにしたくはないのである。

 

「副長、おれがいきますよ。いえ、相棒とおれとでいきます」

 

 いいながら熱きを感じたので庭をみると、相棒がじとーっとにらんでいる。ゆえに、自然な感じで『相棒とおれとで』といいなおしてみた。

 

「ふう・・・・・・ん。相棒ね・・・・・・」

「ちょっ・・・・・・。永倉先生、いまのはどういう意味なんです?」

「いや、べつに他意はない」

 

 ぜったいに、ぜったいになんかあるはずだ。

 

「兼定は兎も角、主計か・・・・・・」

「って、副長までなにをおっしゃるんです」

 

 まさか、副長にまでダメだしをされるとは……

 心外をとおりこし、正直、不快である。

 

 刹那、またにらまれてしまった。

 

 おれの心の声は、どれだけだだもれしているんだ?

 

「やはり、おれがゆこう。兼定はぽちについてゆきたがるであろう。半次郎ちゃんもどうだ?主計は・・・・・・。まぁ一人くらい足手まといがいても、おれたちで十二分に補えるか」

 

 これは、モラハラか?それとも、たんなるいじめか?

 

『副長にだけはいわれたくないですねっ!』

 

 いかなるハラスメントやいじめに屈してなるものか。ゆえに、声を大にしていってみた。もちろん、心の奥底のそのまた奥底で、である。

 

 なのにまた、副長にめっちゃにらまれた。

 

 

「ならば、おれがゆこう」

 

 永倉も副長の意図に気がついたようだ。

 

「いや、新八。せっかく酒をふるまってくれているんだ。いやってほど呑ませてもらえ。つぎはいつ、かような太っ腹な饗応にめぐりあうやもしれぬからな」

 

 このあとはそれぞれ仲間のもとへ戻り、以降は戦いに身を投じることになる。饗応以前に、ゆっくり酒を酌み交わすなんてこともそうそうないであろう。

 

 永倉に『呑んでいろ』とすすめたのは、副長なりの思いやりにちがいない。おそらく、だけれども。

 

「わかったよ。半次郎ちゃん、あんたが戻ってくるまでひかえめに呑んでいるからな。案ずるな。その間、なにがおころうと西郷先生はかならずや護り抜く」

 

 永倉が杯をかかげて半次郎ちゃんにいうと、半次郎ちゃんは無言でうなずいた。

 

 いまの永倉の約束は、フツーなら心強くて安心して任せられるものである。

 あくまでもフツーの状況なら・・・・・・。

 

 いま、西郷になにかあるとすれば、彰義隊など幕府側の攻撃なり刺客に襲われるという確率が高い。

 たとえ連合軍のなかで、西郷を始末しようという者がいても、いまはまだ決行するには時期が悪すぎる。それこそ、暗殺して幕府側の刺客の仕業という

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