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domoto63

冬乃は頷いて

冬乃は頷いて、重たい瞼を抑えて見つめ返す。

 

 「食欲はどう」

 

 まだ熱っぽさで頭痛までしているものの、それでも先程よりは少しだけラクになったような感覚がある。

 冬乃は「少しだけどあります」と声を押し出した。

 

 きっといま、冬乃のなかの免疫が一生懸命働いているのだろう。

 

 事実、こみあげる咳に、international school kindergarten 冬乃は次には沖田から顔を背けて。

 「っ・・」

 

 コンコンと咳き込みだす冬乃の体を、沖田がやや横にして背を撫でてくれる。冬乃はなんとか頭を下げてみせながら、

 無理に咳を我慢しないほうがいいという事も、以前に読み漁った本に書いてあったと思い出す。

 

 咳も、鼻も、熱も。すべて、体が侵入者を退治する過程で起こしている症状だからだ。だからそれらの症状を無理に止めたりはせずに、

 

 冬乃がするべきことは可能なかぎり栄養を摂って、そうして体が闘う力を保つ事。

 

 

 「何か食べたいものはある?」

 

 咳が収まって暫く、つと聞いてくれた沖田に、冬乃は素直にこくんと頷いた。

 

 「・・おでんが食べたい・・です」

 

 真っ先に浮かんだものを答えてしまってから、時期外れだったかと思い直すも、

 「具は?」

 とまるで問題なさそうに聞き返されて、冬乃はちょっと考えた。

 今の時期でも厨房にありそうな食材はきっと・・・

 

 「・・こんにゃくと、」

 挙げてみる。

 

 「だいこん、卵、ちくわ・・・」

 

 ふと沖田を見ると、だが、こころなしか驚いたような顔をしている。

 (?)

 

 「わかった。少し待てる?」

 

 一寸間を置いてかけられた言葉に、冬乃はもちろん「はい」と頷いて。

 

 「ありがとうございます」

 

 

 沖田は、微笑んでそして立ち上がった。

 

 厨房へ伝えにいってくれるのだろう。冬乃は、面倒をかけることになる茂吉たちにも心内で詫びと礼をしつつ、

 出てゆく沖田の背を目で見送り、再び瞼を閉じた。 そのまま豚の足裏にくっついたまま、冬乃が運ばれた先は餌場のようだった。

 

 「んで、どの豚を新選組に送ることにするか決めたのかい?」

 

 (え!)

 

 突然聞こえてきた人間の声に、冬乃はどきりと耳をそばたてる。といっても冬乃は未だに豚の足裏にいるのだが。

 

 「あの母豚とその子達にするさ。他の母豚は皆いま体調が悪くてよう」

 「ああ、おらのところも今そうさね。豚の間で風邪が流行ってていかん」

 「まいるねえ。ま、豚の風邪なんざ死ぬこたあ滅多にないから心配いらんよ」

 

 (そっか・・)

 ブタインフルエンザは、豚にとって予後は悪くない事が多いと、読んだおぼえがある。

 

 あの豚インフルが侵入した母豚も、きっとそれをうつされることになる子豚たちも、その子豚からさらにうつされることになるだろう、冬乃と接触したあの子豚も。大丈夫なはずだ。

 

 

 (だいぶ大丈夫じゃないのは・・・・私だけか)

 

 

 

 妙に納得したところで。

 

 冬乃は目が覚めた。 下を見れば、一見してそれとわかる免疫兵士たちが、まがまがしい殺気を放ちながら、宙にいる冬乃たちに一直線に向かってくるではないか。

 

 (きゃ・きゃあああ・・!)

 

 前を飛ぶ豚インフルのさらに向こうには、なにやら出口らしき光が射していて。

 

 冬乃も大慌てでその出口へ着こうと手脚をばたつかせる。尤も見てみれば冬乃の手脚もまたツノである。

 

 ぶひーーーーーっくしょん!!

 

 (ひゃあああぁぁぁ)

 ここらは鼻の粘膜だったのか、いまの轟音と同時に次の瞬間には、突風の嵐に巻き込まれて、冬乃は豚インフルとともに光の中へ飛び出していた。

 

 (・・・あ)

 飛び出した先には、たくさんの豚たちがいた。

 

 「あの豚にしよう。えいえい」

 豚インフルがさっそく、とある豚の鼻の上めがけて落ちてゆく。

 

 (ん?)

 あの豚、どこかで見覚えが・・

 

 (あ・・っ、いつかのお母さん豚!!)

 「だめえ!」

 

 慌てて叫んだ冬乃の声もむなしく。

 

 (ああ・・)

 お母さん豚へと侵入してゆく豚インフルを見ながら、

 

 冬乃のほうは、身にまとうあたりの湿気の重さに耐えきれず、草の地面へとやがて着地した。

 

 (ぎゃ)

 次には通りすがりの豚に踏まれたものの。自分の体があまりに小さかったのか、潰れはせずに、むしろ豚の足の裏にどうやらくっついたようで。

 

 (目がまわる)

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