手持ちの兵の事は甘寧と趙厳に任せている、動くべきだろう。だがそうしたら最後、出来ませんでしたにはならんぞ。じっと荀彧を見る、勝算がなければ進言をしても来ないんだろ。
「何苗の兵は門を閉じ籠もっています。楽隠長吏が保全を行い、沈黙を保っておりますがそれも限界でしょう」
元より文事を取り仕切ることしかできない爺さんだ、今の状況はかなりの負担だろうさ。だが董卓に屈することが出来ないのは、何苗を殺したのが董卓の弟の董旻だから。かといって誰か頼れるかというと、何進も居ないんだ、何皇太后が浮かぶくらいだ。
皇室に忠誠を誓っている将軍、https://www.easycorp.com.hk/en/accounting 皇甫嵩や朱儁、袁家の筋ならば成立する可能性は高いか。だが皇甫嵩も朱儁も自身の兵力は持たないと聞いている、ならば袁家か。ところが袁紹は何進の幕僚だったから外れる、袁塊は将軍職を退き宮中に籠もっているから難しい、後任の袁術がいるがあいつは反袁紹で董卓派になっているから論外になる。
「潮時というやつだな。吏路と牽招に先触れを出しておけ、今夜楽長吏と会うぞ」
門下生の小僧らではあるが、師である楽隠への影響力はある。ならばそいつらの賛同を得て置けば、後はきっちりと流れるだろうさ。
「仰せの通りに」
いずれ来る動乱、そこで力を振るえるように準備の手を抜くつもりはないぞ!◇
太陽が沈み切ったところで屋敷を出る。きな臭い昨今なので、文聘と荀彧の他に、武兵団から二十の供回りを率いて車騎府へと向かった。何苗が戦没してからもその屋敷はそのままで、手を入れられずに放置されている。
門衛が立っている、こちらに気づくと文聘が「楽先生と約束があります、文聘が来たとお伝えを」しっかりと来訪を取り付けていることを知らしめる。
「聞いております、どうぞお入りください」
門が開くと文聘が先導する。結構な数の兵が居るな、手を出さずにいるのはこれが原因か? まあいい、行けばわかる。母屋に入ると大きな部屋に二十人程が居た、こちらの護衛は外で待っている。中央に立っていた老人、楽隠が腰を折る。
「恭荻将軍、よくお出でになられました」
取り巻きの奴らも同時に礼をした。こちらも同じように礼を返す。
「楽隠先生、お久しぶりです」
「どうぞお掛けになってください」
「年長者である先生からどうぞ」
お互い席に座るようにと勧め合い、最後は楽隠が先に座り俺が向かいに腰を下ろす。随伴者は皆が起立したままだ。
「聞きまするに、恭荻将軍は少帝陛下をお助けし、上洛を果たしたとのこと」
にこやかに先日の話題に触れて来たか、当事者以外がどう受け止めているかを知る機会だと思うとするか。
「そういうこともありましたが、今は一介の武官でしかありません」
「司空殿が百官を取りまとめていると聞いております。ここへも使者がやってまいりました」 ふむ、兵を渡せって来たんだな、それに俺への牽制でもある。誰がやって来たかはあまり関係ないから掘り下げることもないな。
「董卓は俺を避けているようで、あれ以来何とも言って来ません」
「……恭荻殿、本日のご用向きは?」
立ち位置は別にあると示したところで確かめに来たか。供回りにこれといって敵意は無いが、緊張はしているか。
「将軍は、兵を集め、それらを故郷に帰すまでの責任を負っている。何苗将軍の兵等の行く末が気になったまで」
「この場に在るは車騎殿の部曲兵、恭荻殿も彼らをお求めか」
あの楽隠が表情を無くしてこちらを凝視する。