長安の都では董卓が相国として君臨している。洛陽を離れたことでこのあたりは非常に安定した治安がもたらされている。末端では酷い物ではあったが、それでも董卓のひざ元では彼の命令以外では自由に動けるものが居ないので、意外とまともな状態だったのだ。
董卓に呼ばれて賈翅は寝室へと入った。ここに出入りできるのは、ごく一握りの人物のみ。
「相国、お呼びと聞きました」
「おう賈翅か、世は治まっておるか」
大雑把な物言いに、避孕藥月經 今日の董卓は機嫌が良いことを悟る。温めていた報告の類をどの順番で聞かせようかと二秒で思案して決める。
「概ね平穏といったところで御座います。未だ袁紹を始めとした連合軍の存在は残っておりますが、河内の端で形だけといったところ」
「はっ、所詮小心者の袁紹ごときでは何も出来ん」
鼻を鳴らして小僧が何するものぞ、と見下した笑いをした。これだけ勢力の勢いに差がついてしまえば、それも仕方ないこと。政治力の差は歴然、やはり帝を手中にしているのが大きな違いだろう。袁紹は劉虞に何度も立つようにと願ったが、劉虞は一切取り合おうとはしなかった、そのせいで求心力が低下している。
「公孫賛が誘いを受け、冀州を攻略しようと動いておりますれば、袁紹も気が気ではないでしょう」
冀州には袁紹の根拠地である、渤海郡の南皮県が所属している。元はと言えば渤海太守をしていた袁紹だが、車騎将軍を自称してからはずっと留守のまま、印綬は持っているが現状どうなっているかは定かではない。
「愚か者同士で醜く争えば良いのだ」 誰が殺し合おうと漢の土地が無くなるわけでもないので、便利な道具として官職を利用出来る立場にご満悦だ。未だ名誉が実益を上回ると信じている者が多い、それは人が利益では動かないことがあるからに他ならない。
「孫堅を討伐に出た軍があまりの精強さに無理を悟り河南に引き返してきております。なんでも数万の大軍で近づいたのに、一万程の孫堅軍は目の前で平然としていたとか。荊州に戻り精兵を招集して伏せていたのではないでしょうか」
「そのように直ぐに兵が集まるものか! まったく、少し調べればわかることに怖じ気付きおってからに!」
憤慨する董卓を見てここで朗報を刺し込む、そうすることで怒りが収まるのを知っているからだ。
「ですが実際に万の軍勢が荊州入りしているという報も御座いました。それは決して悪いことでは御座いません」
「ほう、それは何故だ」
寝台に座っている董卓が、右ひざに肘を乗せて上体を押し出して来る。貫禄十分、気が弱い者ならば睨まれてしまい萎縮していただろう。
「その軍勢、袁紹と袂を分かち離脱した袁術軍ですので。荊州へ東回りで向かっているとのこと」
「おお、そいつは朗報だ! やはり袁紹ごときでは大事をなせないということだな、ははははは!」
無事に報告を終えることが出来たので、表情には出さずに賈翅もほっとしている。朝議が始まるので一旦ここで退室して議場へ向かった。今日の集まりは悪くない、というのも朝議は大臣らが出席する権利があるものであって義務ではないからだ。権利の行使をするかどうかは個人個人に任せられている。
先に面々を観察して異常がないかを頭に入れると、その場で董卓が来るのをじっと待っていた。ややすると董卓がやって来て、本来座するべきではない玉座に我が物顔で腰を下ろす。そしてそれを注意する者は誰も居ない。残念ながらこれが現在の力関係なのだ。
各種の報告が行われていくが、どれもこれも何かを改革するようなものではなく、進捗状況の確認のようなもの。そんななかで、一つの懸案事項が発表された。
「賈翅、あの件を」