「悔しかったら本気で取り返しに来いや。やないと返さんけぇ。覚悟しちょきや。木戸さん。」
入江は棘のある言葉を投げつけて桂に背を向けた。
『まぁ広間で寝るのは文ちゃん達がおる間だけやけどな。』
三津が嫌な思いをした分こっちが仕返ししてやるとあくどい笑みを浮かべた。
それに触発された桂は半ばヤケになって職務を終わらせて夕刻にはまた三津に会いに戻って来た。
「お帰りなさい。今日は早いんですね。」 【生髮】維新烏絲素有無效?成分、副作用一覽!
三津はフサと共に広間に膳を並べながら桂の相手をした。この時間が最も忙しいのだ。
「昼間来た時は三津がいなかったから会いたくて早く終わらせた。」
だが早く終わらせたのに間が悪かった。つくづく駄目な男だなと自分で自分が嫌になった。
『三津の都合も考えないと自分ばかりで駄目な奴だ。』
桂は邪魔しないように外にいると言い残して広間から出た。
『何もしなくても普段通りでいいと言ってもらったのに心の距離は離れたまんまで埋まらない……。』
桂は賑やかな広間の音を聞きながら縁側でしょんぼり肩を落とした。しばらく一人でいじけていると近付いてくる足音がした。
「ここに居たんですね。すみませんお待たせして。」
「こんなの待ったうちに入らない。忙しい時に来てすまないね。」
待ち望んだ三津の姿に自然と表情は解れるが,今日こそは余計な事を言わない,三津を悲しませないぞと意識すれば表情は強ばり言葉が出なくなる。
三津は桂の横に腰を下ろして黙ってしまった桂を不思議そうに眺めた。
「お疲れですよね。どうぞ。」
三津がぽんぽんと自分の膝を叩いた。桂はいいの?と何度も確認しながら遠慮がちに膝枕をしてもらった。
「私ばかりがすまない……。」
「いいえ。私は果たすべき役目を何一つ果たせてませんからね。この背中に背負ってるものがどれほどの重圧かまだ理解出来てない証拠ですね……ごめんなさい。」
三津は桂の背中に手を当てて優しく擦った。
『優しくて温かい。心地良い……。』
三津から与えられる手の感触にほっとしたら勝手に瞼が下りてくる。桂は一瞬で眠りに落ちた。
「今日もお疲れ様でした。」
耳元で囁いて規則正しい寝息に微笑んだ。こんな穏やかな時間をもつのはいつぶりだろうか。ついこの間までこんな時を過ごしていたのにそれも随分昔のように思えた。
『綺麗な寝顔。』
女から見ても腹立つぐらい綺麗だなとその頬を撫でた。
『起きひん。』
前に寝顔に触れた時には瞬時に鋭い目が開いたのに今日は身動ぎ一つしない。
それだけ疲れてるのと自分には安心してくれてるのだなと思って愛おしい寝顔を見つめた。
遠くに広間の賑やかな声を聞いていたらその賑やかさが徐々に近付いてきた。
「あっここにおったん?桂様寝ちょるん?」
文達が三津も夕餉をと呼びに来たのだが三津の膝枕で熟睡する桂に目を丸くした。
こんな縁側でここまで警戒心なく寝ているのに驚いた。
「えっ起きんそ?」
赤禰が流石にこの大男は寝床には運べんぞと顎を擦った。
「そのうち起きますからそれまで待ってます。起こすのも悪いんで。」
「そしたら三津さんにおにぎり作って来るわ。」
「俺酒持って来るわ。」
「疲れて寝ちょる人の側で宴会する気か。」
文が三津に軽食を用意するのは分かるがお前は止せと赤禰が高杉の頭を小突いた。
「いや,ちょっとは騒がしくせんとこの人起きんかもしれんわ。起こさんと三津も足が辛いやろ。」
入江は高杉の案に乗った。三津にずっと正座させとくのも酷だ。それに膝枕が羨ましくて腹立たしい。
出来るだけ騒いで最悪の目覚めを提供したいと密かに思う。
そうだな三津に出逢ってからそうなった。」
「私?」
「そう。まぁ買ってもらわないと彼女達も生活かかってるから困るんだろうけど,それならいっそ身請けてやんなよって思う。
彼女達だって好きでもない男に代わる代わる抱かれるよりずっと一人に愛されてたいだろ。
三津を見てそう思うようになった。」
まっすぐ前を見つめる吉田の横顔を三津は瞬きもせず見ていた。【生髮】維新烏絲素有無效?成分、副作用一覽!
「だから行かなくなったけどお陰で陰間に行ってるって噂立てられたけどね。」
そんな事ある訳ないと喉をならして笑った。そしてきょとんとした顔に気付く。
「あぁ……陰間は男が男の……。」
「あ!分かりました!もういいです!」
意味を理解して俯いた。本当に自分は世間知らずだと言うのも恥じて余計に顔が熱くなる。
「……でも……その……辛くないんですか?」
桂なんて三日空いただけでも不機嫌になるのに。
「何?俺の毒抜いてくれんの?それとも普段俺がどうやって毒抜いてんのか気になるの?」
吉田は三津の反応を見越して意地悪く口角を上げ,三津は俯いたまま無言で吉田の背中をぺしぺし叩いた。相変わらずの反応を吉田は嬉しく思う。変わらない三津が愛おしい。
桂に染め上げられてそこら辺の女のようになってしまうのが嫌だった。
でもやっぱり三津は三津で,そうはならなかった。それが堪らなく嬉しい。
「三津には変わらずそのままでいて欲しい。俺がついてないと危なっかしいままで。」
「それ馬鹿にしてます?」
眉根を寄せて吉田を見つめる。
「いや?危なっかしい所を俺が護るって言ってんの。」
「迷惑かけないように大人しくしてますってば!」
『相変わらず伝わんねぇなぁ。』
それも分かっちゃいるけど参ったなと笑いがこみ上げて来る。
そんな吉田をどうしたの?と不思議そうな顔で見る。
「何でもないよ。」
もう少し,この他愛もない時間を過ごしたい。だけど二人の家は藩邸から近い位置。
あっという間に着いてしまう。
『もう少しだけ……。』
一緒にいたいと,三津も思ってくれないだろうか。
『思う訳ないか……。だって三津だもんな。』
こうして送ってくれと頼みに来ただけでも凄いことだと言い聞かせて家まで送った。
「一人で大丈夫?」
「大丈夫!」
先に休んでなさいと言われたから寝てしまえば寂しくない。
「寂しいなら寝るまで傍に居るけど?」
「え?」
心の内を見透かしたように口角を上げる吉田に驚いて口を半開きのまま瞬きも忘れた。
「なんてね。そんな事したら我慢出来ずに食べちゃいそうだから大人しく帰るよ。」
口半開きだぞと笑って鼻を摘んでやった。
「なっ!」
「それともちょっと食われたい?」
口をぱくぱくさせて狼狽える姿に笑みを深めて鼻を摘んでいた手を今度は顎に添えた。
「冗談だよ。
でも……結果的に三津のせいで禁欲生活になってるから責任取ってそろそろ食べられる覚悟してよね。
じゃあ……おやすみ。」
吉田は三津の頬に優しく触れて家を出た。
三津は熱くなった顔を両手で包んで玄関に立ち尽くした。
吉田はからかうだけで何もしてこなかったが入江にちょっとだけ食べられたのを思い出した。
『アカン忘れよ。じゃないと平常心保てん……。』
あれは悪い夢だった事にしよう。
三津は布団に潜り込んでぎゅっと目を瞑り,起きたら忘れてるんだと暗示をかけた。朝起きた三津は昨日の事などすっかり頭から抜け落ちていた。
「嘘でしょ……?」
隣の布団が空っぽだった。桂が帰って来なかったのだ。
『まさか何かあった?こう言う時どうすればいい?とりあえず藩邸に行けばいい?』
布団を跳ね除け慌てて身支度を整えた。そのまま玄関を飛び出そうとした時,桂が帰宅した。
「ただいま。どこへ行こうとしてるの?」
「あ……えっと……おかえりなさい……。何かあったのかと思って藩邸に……。」
行こうとしてたけどその必要はなかった。
桂はぴんぴんしている。
『知らんお香の匂い……。』
その体からはあからさまな女の匂い。
三津の眉がピクリと動き,眉間には皺が刻まれる。
それに気付いた桂が慌てて事情を話す。
「宮部さんが酔い潰れてしまって面倒見てたらそのまま泊まることになってね。」
「それは大変でしたね。すぐに着替え用意します。」
「起きてたんか…。
近藤さんと土方さんが来てはった。謝りに,来はった。」
「そう……。何か言うてた?」
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あっさりと身を退いてくれた。
三津はほっとしたような,寂しいような,どこかもどかしい気持ちになった。
「あのね,おばちゃん。みんな悪くないねん。」
新選組から離れたいと願って甘味屋に逃げ帰ったのに,可笑しな話だと自覚しながらも続けた。
「確かに怖い目に遭ったけど,私が間抜けやからこうなってもただけで…。」
誰も悪くない。そう思う他なかった。
「分かってる。あの人らを恨んだりせん。でもな,ホンマにあんたが居なくなってしまうかと思った。」
トキの表情が歪んだ。こんなにも泣き出しそうな顔を,三津は見たことなかった。
「危険が伴うのも承知の上やった。せやけど,どっかで大丈夫やろ,なんて思っとった。
それが間違いやって思い知らされた。
お願いやから三津,もう目の届かん所に行かんとってっ……!」
トキは三津の手を強く握った。三津は繋がれた手を優しく握り返した。
「うん,私はここにおるよ。」
どうしたら安心してもらえるのか考えて,熱のせいで赤らんだ顔で笑った。
「こんなに傷だらけになってもて……。」
トキは目を潤ませて,三津の腕や足を優しくさすった。
川に投げ込まれた時,川の中でもがいた時,川底や岩にぶつかってあちこちに擦り傷が出来ていた。
「掠り傷やから平気。だからそんな顔せんとって。ね?」
トキは表情を曇らせたままだった。
「おばちゃん,後でお粥食べたい。」
三津は鼻を啜りながら,へへっと笑った。
『精一杯甘えたら安心してくれるやろか?』
「はいはい,そしたら大人しく寝てなさい。」
慈しむように頭を撫でてからトキは部屋を出た。
『……吉田さんは大丈夫かな?』
自分はバッチリ風邪を引いた。だったら同じ様になった彼も少なからず体調を崩してるかもしれない。
『あれで風邪引いてなかったら吉田さんって……馬鹿……。』
思わずふっと吹き出した。
もし自分が何ともなくて,吉田だけ高熱なんか出していたら。
『後で“やっぱり三津は馬鹿だね”って言ったやろな。
でも土方さんなら,“それぐらいで風邪引きやがって,鍛え方が悪いっ!”って言わはるやろな。』
土方の言い方も表情も,鮮明に思い出されるし,真似だって出来る自信がある。
『でも,もう屯所に戻る事はないんやな…。みんなと一緒に過ごす事はないんや……。』
「ほら見なさい。無茶するからだ。」
「別にこれぐらいどうって事ありません。」
吉田が横たわる布団の脇に桂が正座をして見下ろしていた。
「玄瑞に薬を作らせている。後で飲みなさい。」
「そんな物飲まずとも,寝れば治ります。寝たいので一人にしてもらえませんか?」
心配してくれてるのは分かるけど,吉田にとっちゃ有り難迷惑だった。
何とか桂を追い出して,ほっと息をついた。
『ありゃ三津を心配してる目だったな。
三津も同じ様になってる…なんて考えて見てたんだろうな。』
「あーあ,動けなきゃ三津に会いに行けないじゃないか。」
ガンガンと頭をかち割るような痛みに耐えながら目を閉じた。
『助けてやったんだし,それなりにお礼はしてもらわなきゃね。
謹慎なんて誰が守るもんか。』吉田がうとうとしている所に二つの足音が聞こえてきた。
「入るぞ。」
「もう入ってるだろ。」
吉田が許可する前に,久坂と入江が障子を開いて中へ踏み込んで来た。
「心配してやってんだ。」
言葉は端的だが,その中には入江の温かさがある。それを知ってるから,吉田は何だかこそばゆい感じがした。
「そりゃどうも。」
その気恥ずかしさから,右手を顔に被せた。
「お前が逃がしたあの娘,以前会った事があるな。」
久坂の言葉を聞いて吉田は指の隙間から目を覗かせた。
「上から見下ろされるのは好かん…。」
長身の久坂は胡座をかいても横たわる吉田に威圧感を与えた。
「以前連れてたろう?」
「何処で会ったかも覚えてるか?」
と言います!その、一番組の鈴木とお見受けします」
桜司郎はゆっくりと振り向くと、市村を見やった。懸命さを伝える真っ直ぐな瞳が眩しい。思わずにこりと笑みが零れた。
「はい。正しくは組長ですが……。鈴木桜司郎と申します。よろしくお願いしますね、市村君」
それを見た市村は胸に手を当て、植髮過程 頬を染めながら俯く。
「その、覚えとらんかも知れませんが……。俺、貴方に助けてもろたことがあって……。そこから憧れとって、ようやく入隊さして貰えたんです!お会い出来て光栄です……。あ、引き止めてしもうてすみません!で、では!」
興奮冷めやらぬといったように言いたいことだけを捲し立てると、市村は頭を深々と下げては副長室へ引っ込んだ。
桜司郎は呆気に取られ、瞬きをする。だが、憧れと言われて悪い気はしなかった。市村少年に幾ばくかの元気を与えられながら、今度こそ自室へ向かう。
この時間帯は稽古終わりの風呂や、夜番の支度、夕餉の支度とそれぞれが忙しなくする為に、人があちらこちらに居た。
ふと門を見やると、馬越の姿がある。どうやら一人で戻ってきたらしく、周りに武田の姿は無かった。
桜司郎は眉を寄せると、そこらにあった雪駄を引っ掛け、馬越へ近付く。何かを考えるよりも身体が動いていた。「馬越君」
声を掛けると、馬越は少し驚いた顔で振り向く。
「鈴木さん……。何でしょう」
そして警戒と恐れを孕んだ視線を桜司郎へ向けた。
それに僅かに傷付きながらも、平常心を保ちながら馬越を見る。まともに正面から彼を見たのは久々だったが、以前とは纏う雰囲気が変わったように思えた。
あれほど身なりに気を付けており、小物も女子が持つような可愛らしい物を持っていたはずだった。着物も紫や若草色といった明るめの色を好んでいたはずなのに、今や小物は持たぬどころか、焦茶や黒の着物を着ている。
加えて、愛らしい顔には疲労の色が浮かんでいた。
「少しだけ時間を貰える?話したいことがあって……」
「……此処では駄目なのですか」
「うん、駄目。お願い、少しだけでいいの……」
懇願するように言えば、馬越はふいと顔を背ける。そして少しの間の後に小さく頷いた。
二人は屯所とは正反対側の、西本願寺の境内へと移動する。馬越はしきりに周囲を気にした。もしかすると武田の目を気にしているのかもしれない。
「話しとは、一体何でしょう」
そのように問われると、桜司郎は視線を彷徨わせた。勢いに乗じて連れ出したは良いが、流石に盆屋で盗み聞きしたとは言えないことに今更気付く。
「その……ええと……。げ、元気だった?」
「……無論ですよ」
「そ、そっか。良かった……」
──こんな事が聞きたい訳じゃないのに!でも、何て聞けば良いのか分からない。……こういう時、斎藤先生なら上手い言葉を思い付くのだろうな。
歯痒い気持ちと共に、しどろもどろになった。そんな桜司郎を見やると、馬越は一瞬だけ優しげな笑みを浮かべる。しかし直ぐに真顔に戻った。
「どうやら、忘れてしまったようですね。それでは今度の機会に……。急いでいますので」
そう言って背を向けると去ろうとする。桜司郎は何かを言いたげに口を動かすと、唇を引き結んだ。この期を逃しては、もう二度と二人で話せないかもしれないという焦りが募る。
「待って!」
「おれを一人にしてくれるな。かっちゃんや源さんが逝き、総司と新八、左之と平助はとおくにいる。いまや、昔からの仲間といえば斎藤だけだ。島田や勘吾も助けてはくれる。だがな、おれには助けてくれる
良三は、
「が一人でもおおく必要なんだ」
驚くべきことに、これまで泣き言っぽい言葉をいったことのない副長が、そんなことをいきなり口走りはじめたのである。
こ、これは……。
思わず、額頭紋消除 天をみあげてしまった。
隕石が落ちてくるとか、太平洋沖にあるプレートが動きまくるとか、八百六年に噴火してからまともに噴火していない磐梯山が噴火するとか、未曽有のなにかが起るかもしれないと思ったのである。
ちなみに、磐梯山の噴火であるが、厳密には1780年代に水蒸気噴火らしきものがあったかもしれないらしい。それ以降となると、1888年に五百名ちかい死者をだす水蒸気噴火がおこることになっている。
それは、から二十年ほど後に起こるかもしれない出来事である。
って、また副長ににらまれるかと覚悟したが、副長はおれをよむヨユーなどまったくないらしい。
いまだを伏せたままでいる俊冬のまえで、かれをにらみおろしている。
泣きながらマウンティングして、なにが面白いんだろう。
「あのとき新八に殴らせたが、おれ自身がやればよかったんだ。それをいま、心から後悔しているよ」
副長は、まったくちがうことを語りだした。しかも、声のトーンがまったくかわり、気味が悪いほどやさしくなっている。
副長や永倉たちは、板橋で近藤局長の斬首をおこなってから去ろうとする俊冬に会ったらしい。実際のところは、そのまま去ろうとする俊冬を、副長たちが強くひきとめたにちがいない。そして、副長たちは俊冬を連れ、俊冬と俊春があらかじめ手配しておいた荒れ果てた寺にいった。
副長は、そこで永倉に俊冬を殴らせたのである。
すこしでも俊冬自身の心の負担を軽くするために。
ちなみに、そのあとにおれたちが合流したが、そのときも永倉は俊春をボコした。
が、俊冬の心の負担は、そんなことでは軽くすらなっていないのだ。
俊春がそうであるように。
「たま、勘違いするな。独りよがりはよせ。おれが、否、おれたちが怒っているのは、おまえたちが自身を責めていることだ。おれたちを信じてくれていないっていうことだ。おれたちを見捨てようとしているっていうことだ」
俊冬の体が、そうとわかるほどびくっと震えた。
「そうですよ、たま」
勝手に口から言葉がでていた。
おとなしくて控えめなこのおれが、どうしても我慢できなかったのである。
「副長もおれも、それだけじゃありません。斎藤先生だって島田先生だって、蟻通先生だって、それから、ここにはいらっしゃらない永倉先生や原田先生だってそうです。怒っているだけじゃなく、悲しいんです。自分自身のことが情けないんです。たま、あなたとぽちを傷つけてしまった上に、それを癒すことができないどころか、よりそうことすらできないんですから」
ずっと伝えたかったことである。会えばいってやろうと、ことあるごとにシミレーションしていたのが功を奏したらしい。
泣きながらでも、言葉がぽんぽんと口からでてゆく。「たま。すべてをあなた一人で、いえ、ぽちとたまで背負うには、あなたたちの背はちいさすぎます。それよりも、副長やおれたちに共有させてください。そのかわり、おれたちもそれぞれの想いや苦しみを、あなたたちに共有してもらいます。いっそのこと、これを機にまえを向きませんか?うまくいえませんが、おれたちはまえに進むしかないんです。どんなに過酷でひどい運命であっても、進んでゆくしかない。そのためには、みんながまえを向いてなきゃいけないんです。一人でもちがう方向を向いていたら、うまく進めないでしょう?なにより、副長もおれたちも、あなたたちが必要なのです。あなたたちのすべてがほしいのです」
おれよ、ちょっとまて。せっかくシリアスに熱弁していたというのに、最後の台詞がヤバかったんじゃないのか?もしかすると、なにか誤解を招くような表現をしてしまったんじゃないのか?
そうか……。
おれってば、シリアスなシーンに慣れていない。だから、緊張とプレッシャーで自分でも予期せぬ想定外の言葉をさしはさんでしまったのかもしれない。
いまから訂正できるのか?さっきの台詞はなかったことにして、最初からやりなおしをすることはできるのか?
そんな焦燥に苛まれまくっている間、一人として口をひらくことはなく、動きの一つもない。
静かすぎる。さっきまで騒いでいた鳥獣も、いまはひっそりとしている。
おや?もしかして、おれの熱い想いのこもったスピーチに感動するあまり、最後のほうは違和感なく受け入れられたのであろうか。それとも、スルーしてくれたのであろうか?
ホッとしかけたときである。
「しゅ、主計……」
斎藤がおれの横で感極まったような声音で名を呼んだ。
そちらに