敢えて厳しい表現をすると、表情を引き締めて姿勢を正した。
「そのような重任をお任せいただき、文仲業は誇らしく思います」
「よし、応佐司馬に相談しながらでいいから基礎を作るんだ。より良いと思える形が見つかれば九割九分出来上がっていても一から練り直せ。防衛任務からは外れても構わん、必要になれば声をかける」
「畏まりました!」
二人の背を見送る、Setup Offshore Company 何故かな俺が嬉しく感じたのは。黄巾賊が押し寄せてきても城に籠もっていれば抜かれない、すり抜けたとしてもこちらの包囲下でどうとでも出来るぞ。しかしこんな他人任せの戦況維持でいいものかね、俺は俺でちょっと考えて動く必要があるな。
荊州兵も今や増えて二万に迫る勢いだ、勝てば数が増えるのはいつもの事だが、一カ所に留めおくのはいただけない。それはそれとして訓練はまとまっていた方が良いという矛盾か。その後の配備先でも検討するのが妥当だな、荊州の内情が全く解ってないのが困る。 適性があるようならば兵を密偵としてあちこちに派遣する、そいつでいくとするか。戦うだけでは本当に手詰まりになる、諜報部を拡大だよ。やっぱり呂軍師のような奴が欲しい、うーむ。
◇
維持訓練を行い一か月ほど、ここで大きな変化が現れた。黄巾賊にではなくこちらにとってのことだ。新野に徐刺史が移動してきて、南陽戦線の総指揮を執るというのだ。こいつは良手だ、これならば泰太守との連合も指揮権一本で行えるぞ!
府は別駕に任せてきて、新野にあるのは荊州軍本営という形だ。とはいえ刺史がいる以上は太守だろうが、荊州軍だろうが軋轢も無い。三人を引き連れて俺も新野の城主の間に顔を出したら、泰太守が反対サイドに立っている、気にしないよ。
「島別部司馬、参上しました」
「おお、待っておったぞ。よくぞ南陽黄巾党の首領を倒してくれた、礼を言わせて貰う」
「若い者らの尽力と、兵らの奮戦によるものです。その言葉は是非そいつらへ」
目を細めて笑うと徐刺史は「相変わらずよの。遅れはしたが私も荊州の平定をせんがために南陽へとやって来た。泰太守よ」視線を向うの先頭に立っている対太守へと向ける。見たことがない軍人も居るな、印綬は黒か、荊州司馬か南陽司馬あたりか?
「徐刺史の来訪により軍民共に意気が上がっております。潁川、冀州の黄巾賊は勢いを増しておりますが、南陽のそれは消沈しております。今こそ決戦のときかと」
やっぱりあちらの官軍は芳しくないんだな、何せ朱儁だとか皇甫嵩、盧植ってのは序盤のやられ役的な描かれ方だったような? 生憎詳しい知識はない。「黄巾党の数は膨れ上がり、今や百万を超えたと言われている。ひるがえって荊州ではそこまでではない。これもひとえに泰太守と島別部司馬の働きの結果」
ちらりとこちらにも視線を送って来る、同時に敵意がこもった雰囲気を出している幕僚もいるんだよ。皆が仲良しの方がおかしいのは理解しているさ。
「して島別部司馬はどう見ておるかね」
俺個人の意見としては攻め滅ぼすべきだが、司令官は選択肢を提示しろと言っている可能性があるからな。ならば太守とは反対、攻めないのも出してやらんと困るだろう。様子見になっても、攻めることになっても俺は構わんぞ。
冬乃は頷いて、重たい瞼を抑えて見つめ返す。
「食欲はどう」
まだ熱っぽさで頭痛までしているものの、それでも先程よりは少しだけラクになったような感覚がある。
冬乃は「少しだけどあります」と声を押し出した。
きっといま、冬乃のなかの免疫が一生懸命働いているのだろう。
事実、こみあげる咳に、international school kindergarten 冬乃は次には沖田から顔を背けて。
「っ・・」
コンコンと咳き込みだす冬乃の体を、沖田がやや横にして背を撫でてくれる。冬乃はなんとか頭を下げてみせながら、
無理に咳を我慢しないほうがいいという事も、以前に読み漁った本に書いてあったと思い出す。
咳も、鼻も、熱も。すべて、体が侵入者を退治する過程で起こしている症状だからだ。だからそれらの症状を無理に止めたりはせずに、
冬乃がするべきことは可能なかぎり栄養を摂って、そうして体が闘う力を保つ事。
「何か食べたいものはある?」
咳が収まって暫く、つと聞いてくれた沖田に、冬乃は素直にこくんと頷いた。
「・・おでんが食べたい・・です」
真っ先に浮かんだものを答えてしまってから、時期外れだったかと思い直すも、
「具は?」
とまるで問題なさそうに聞き返されて、冬乃はちょっと考えた。
今の時期でも厨房にありそうな食材はきっと・・・
「・・こんにゃくと、」
挙げてみる。
「だいこん、卵、ちくわ・・・」
ふと沖田を見ると、だが、こころなしか驚いたような顔をしている。
(?)
「わかった。少し待てる?」
一寸間を置いてかけられた言葉に、冬乃はもちろん「はい」と頷いて。
「ありがとうございます」
沖田は、微笑んでそして立ち上がった。
厨房へ伝えにいってくれるのだろう。冬乃は、面倒をかけることになる茂吉たちにも心内で詫びと礼をしつつ、
出てゆく沖田の背を目で見送り、再び瞼を閉じた。 そのまま豚の足裏にくっついたまま、冬乃が運ばれた先は餌場のようだった。
「んで、どの豚を新選組に送ることにするか決めたのかい?」
(え!)
突然聞こえてきた人間の声に、冬乃はどきりと耳をそばたてる。といっても冬乃は未だに豚の足裏にいるのだが。
「あの母豚とその子達にするさ。他の母豚は皆いま体調が悪くてよう」
「ああ、おらのところも今そうさね。豚の間で風邪が流行ってていかん」
「まいるねえ。ま、豚の風邪なんざ死ぬこたあ滅多にないから心配いらんよ」
(そっか・・)
ブタインフルエンザは、豚にとって予後は悪くない事が多いと、読んだおぼえがある。
あの豚インフルが侵入した母豚も、きっとそれをうつされることになる子豚たちも、その子豚からさらにうつされることになるだろう、冬乃と接触したあの子豚も。大丈夫なはずだ。
(だいぶ大丈夫じゃないのは・・・・私だけか)
妙に納得したところで。
冬乃は目が覚めた。 下を見れば、一見してそれとわかる免疫兵士たちが、まがまがしい殺気を放ちながら、宙にいる冬乃たちに一直線に向かってくるではないか。
(きゃ・きゃあああ・・!)
前を飛ぶ豚インフルのさらに向こうには、なにやら出口らしき光が射していて。
冬乃も大慌てでその出口へ着こうと手脚をばたつかせる。尤も見てみれば冬乃の手脚もまたツノである。
ぶひーーーーーっくしょん!!
(ひゃあああぁぁぁ)
ここらは鼻の粘膜だったのか、いまの轟音と同時に次の瞬間には、突風の嵐に巻き込まれて、冬乃は豚インフルとともに光の中へ飛び出していた。
(・・・あ)
飛び出した先には、たくさんの豚たちがいた。
「あの豚にしよう。えいえい」
豚インフルがさっそく、とある豚の鼻の上めがけて落ちてゆく。
(ん?)
あの豚、どこかで見覚えが・・
(あ・・っ、いつかのお母さん豚!!)
「だめえ!」
慌てて叫んだ冬乃の声もむなしく。
(ああ・・)
お母さん豚へと侵入してゆく豚インフルを見ながら、
冬乃のほうは、身にまとうあたりの湿気の重さに耐えきれず、草の地面へとやがて着地した。
(ぎゃ)
次には通りすがりの豚に踏まれたものの。自分の体があまりに小さかったのか、潰れはせずに、むしろ豚の足の裏にどうやらくっついたようで。
(目がまわる)
現実世界でのしごとおさめをなんとか終えました・・ご無沙汰しております。
皆々様いかがお過ごしでいらっしゃいますでしょうか。
どうか温かく年の瀬をお迎えでらっしゃいますよう。
葵(最近はずっと蒼いのほう)はといえば時間のやりくりのドヘタがゆえに今年も結局たいして更新できずにここまできてしまい、延々と土下座から起き上がれず、
葵めの頭めは地球の反対側へ突き抜けたきり最早かなた宇宙へと向かい始(殴
いったい幾度、植髮 表紙文言の「今年の完結をめざし」のコトシばかり更新すればいいのでしょう。ごめんなさいごめんなさい(T□T)
とうてい、また今年の完結は不可能となりましたが(涙、
せめて年越しを少しでも執筆で進めたく、今日から毎日すこしずつ更新いたします。まだ前回から一文字も執筆にとりかかれずじまいでいたため、今夜あたりになってしまうかもしれませんが、お気が向かれたお客様はこれからしばらくアルファポリスのほうでおつきあいいただければと存じます・・v
今年も亀に失礼な亀歩みに懲りずに覘きにいらしてくださり温かい応援の数々を賜り、本当に本当に有難うございました。
あいもかわらずですが来年という来年こそは完結をめざして引き続き励みます(T□T)
来年もどうぞよろしくおねがいいたします。
それでは良いお年をお迎えください・・・今回もまた、もう恒例中の恒例のお詫びSSで・・ございます・・
もう説明は要らぬでございますね・・(涙
しかももう10月ではないですか。この頻度の更新でいったい今年こそ完結まで無事こぎつけるものなのか、、不安しかありません。これまで幾度も地へめりこんでお詫びしすぎて、気持ちは地球の反対側まで頭つきぬけてます。ごめんなさいぃぃ(T□T)
今回のお詫びは、葵めと逆に、天空へと怒りの髪の毛が突き抜けている、やられっぱなしの土方さんに逆襲して・・もらいます。。。
土方さんのぎゃくしゅう①
冬乃「(冬乃、沖田の部屋を掃除中)きゃ?!」
沖田「どうした」
冬乃「・・・・(困惑して沖田を見る)」
沖田「(冬乃の手が拾い上げた物を見る)」
冬乃「・・・」
沖田「・・・・貸して」
冬乃「(震えながら手渡す)」
沖田「(『春画本濃厚版』なる表紙)」
冬乃「ご、ごめんなさい。行灯の裏にあるなんて、その、気づかなくて・・(目を合わせられない)」
沖田「何か誤解してるようだけど、俺のじゃないから」
冬乃「え!?・・でも(なんで行灯の裏に・・?!)」
沖田「(土方さん、やりやがったな・・・)」
※春画本=江戸時代のエロ本。
土方さんのぎゃくしゅう②
冬乃「(翌日)(あの本、総司さんが言うように土方様の悪戯で、ほんとに総司さんのじゃないんだよね・・(ちょっと涙目))」
原田「おう、嬢ちゃん!休憩中か?ちょうどよかった、沖田知らね?」
冬乃「え、いえ。それが、私も探してるんです・・(今日総司さん非番なはずなのに・・)」
原田「嬢ちゃんにも行先言ってねえって・・ことは、まさかあいつ」
冬乃「・・え?」
原田「あ、いや悪い、なんでもない!まさかな(苦笑い)」
冬乃「・・・(なんだろう)」
土方「なんだ、原田聞いてなかったのか」
原田「あ、土方さん、知ってんの?」
土方「(ちらり、と冬乃を見る)・・まあ、野暮用だ」
冬乃「?(前にその台詞聞いたことあったような)」
土方「未来女、気にすんな。男には時に仕方がない時もあるんだ」
冬乃「え」
原田「・・・」
冬乃「(え?何)」
原田「(冬乃の肩をぽんぽんと叩く)」
冬乃「(何なのーー涙)」
沖田「何してんの、またも俺の部屋の前で」
冬乃「(あ!)」
原田「え?何おまえ、里に行ってるんじゃ」※里=遊里
沖田「は?」
冬乃「(里?・・それで原田様、慰めモードだったの?!)」
沖田「俺に用事言いつけた土方さんがそこに居ンのに何故そうなる」
原田「へ」
土方「俺はおまえが野暮用だと言っただけだぜ」
原田「男には仕方ない時がある、とも言ったぜ!」
沖田「・・・・」
土方「近藤さんの妾に金届けてもらったんだよ。野暮用だろが」
原田「なんだよ、紛らわしいな!」
冬乃「(よ、よかった・・・・涙目)」
沖田「(わざとか)」
土方「(へっ)」
土方さんのぎゃくしゅう3
沖田「(どちらかというと冬乃が被害被ってないか?)(土方の部屋を訪ねる)土方さん、開けます」
土方「ってめ、だから許可も聞く前から・・!」
沖田「どういうつもりですか」
土方「ぁあん?」
沖田「俺に言いたい事でもあるんでしょう」
土方「何の話だか分かんねえよ」
沖田「こっちが分かりませんよ、春画本といい先程といい、俺に日ごろの仕返しじゃなきゃ冬乃に嫌がらせですか」
土方「春画本って何だよ(・・・日ごろの仕返しって言うからにはやっぱりいろいろ自覚あんだなてめえ怒)」
沖田「しらばっくれる気ですか」
土方「知らねえっつうのっ」
沖田「俺の部屋にわざと冬乃が気づくように本置いたのアンタでしょうが」
「・・・この話は、真か?ならば何故、新見はわしに別れの挨拶にも来んのか」
「世話になった芹沢局長に、恥を知った身で顔を合わせるわけにはいかぬと言って去られた」
「そのような話、信じられるか!!」
芹沢の一喝に、部屋の隅で縮こまって食事をしていた藤兵衛が、小さく声を漏らして飛び上がった。
「さては主ら、鄭志剛 謀ったな!?新見はそんな殊勝な男でないわ!追放なんぞにも応じるわけがない、今頃どこぞに捕らえられているのではないのか!?」
「そのような事、」
近藤が、諫めるように芹沢を見据えた。
「有り得ませぬ」
「芹沢局長」
つと、今まで黙っていた土方が、
戸に立ったままに、口を開いた。
「貴方の仰りようは、いかにも我々が会津公と示し合わせ、新見元局長を陥れたというふうに聞こえる。お言葉を慎まれたほうがよろしい」
「・・・貴様」
「そもそも、新見元局長は、腹を召されてもおかしくなかったのですぞ」
土方が、その秀麗な眉ひとつ動かさず。
言葉に詰まった芹沢を冷えびえと見下ろした。
「それでも我々を中傷なさるおつもりなら、芹沢局長といえど、捨ておけませんな」
───刹那。
ガタンッと膳が乱暴に退かされる音とともに、 芹沢の周りで殺気立っていた芹沢一派の隊士達が、中腰の態勢で大刀を引き寄せ。
それを受けて近藤の左右で、山南と沖田が、そして藤堂達が、片膝を立て同じく大刀を引き寄せ、
場は一触即発となった。
「芹沢局長、」
悠然と懐手でありながら、隙の全く無い近藤の。低く制するその声音が、殺気の満ちた空間に響いた。
「我々は、謀ってなどおりません。隊の誰にとっても、新見殿が脱退されたことは重大な損失であり痛恨の極みです。ましてや、昵懇であらせられた芹沢局長の御心中、如何ばかりか測り知れません」
近藤の目をじっと睨んでいた芹沢は。
ふっと息をついた。
右腕であった新見を失い、今夜で芹沢派閥の勢力は大きく傾いた。その上、ここで闘争を起こせば、もし本当に守護職からの下知であった場合には取り返しのつかないことになる。
納め時だと悟ったのだろう。
「御前達、静まれよ」
己の周囲で柄に手を添え構えていた、残る腹心達へと。そして芹沢は声をかけた。
忌々しげに、彼らは座り直して大刀を置き。
山南達も態勢を解いて、土方は空いていた席へと向かい座った。
「・・・」
(さっきの土方様の)
挑発にも近い台詞は、わざとなのではないか。
冬乃は、涼しい顔で食事を始める土方と、 もはや無言で酒を手酌しだす芹沢とを交互に見やった。
新見を失った芹沢の怒りを行き場の無いままにせず、一度爆発させ、
それを近藤に鎮めさせた。
(なんでだろ。そんな気がしてならないんだけど)
あの場での、近藤の重厚な態度は当然、ここに居た隊士達の目に際立って見えたことだろう。
その効果を土方が十分に狙っていたとしたら。
(・・土方様、お見事です)
収まった場に少しずつ安堵が広がった様子で、息をひそめていた隊士達がまた歓談へと徐々に戻ってゆく。
(新見様も、本当に追放なら、これで切腹しなくて済むのかな?)
冬乃は、ふと思い巡らせた。
史実として伝えられているのは、九月十三日に新見が切腹して亡くなることである。
(でも、伝わっていた記録のほうが間違えていたのなら)
どうせなら、間違えであってほしい
冬乃はそんなふうに願っていた。
人が亡くならないで済むのなら、それがいい。
(・・だけど、・・)
後世に残っている話では。
すでに近藤達には、守護職から、もうひとつの下知が下されているはずだった。
芹沢も始末せよ、との。
(だから。今は考えちゃだめだ)
何度目になるかわからないその言葉を。
冬乃は己に言い聞かせる。
歓談の波が大きくなる頃。
そして冬乃は、五人へ白米と味噌汁を装うため、そっと席を立った。
冬乃は溜息をついた。
波乱の夕餉も無事お開きとなり、厨房で片付けを終えた後、茂吉と明朝のしたくについて意識合わせをしてから外へと出たところで、
昼間に顔を合わせたばかりの山野が、立っていたからだ。
そういえば夕餉の席でも一瞬見かけたようなおぼえがあるが、それどころじゃなかったので挨拶も交わしていない。
(ていうか何故ここに)
「・・今夜はあけません、とお伝えしたはずですが」
顔を見るなり言い放った状態の冬乃に、
山野がにやりと笑った。
「ちげえよ。それについては追々。今は、ちょいとサラシをわけてほしいの」
「サラシ?」
追々とはどういうことだと訝りながらも、サラシと言われて冬乃は、気になって聞き返していた。
そして。屈辱的開国の責任者である幕府および徳川を糾弾し、幕府の天皇への恭順と、即時の攘夷実行を望む、長州派志士達の“過激尊王攘夷論”に対して、
今上天皇である孝明帝が望むように、あくまで徳川主導の施政の元、攘夷を決行すべしとする、“公武合体尊王攘夷論”での政治思想を近藤達は掲げていた。
だが。
この先、近藤の本懐の完遂する日は。来ないのだ。
(どうしよう・・・ばか私)
有名だなんて、產前課程 安易に言ったばかりに。
「その、・・はい。私の知っているかぎりにおいては・・・」
冬乃の肯定を示唆する返事に。沖田が、ふっと笑みを浮かべた。
胸内に刺しこんだ、嘘吐きへの罪悪感に。冬乃は声を詰まらせ。
(ごめんなさい沖田様)
「冬乃さん」
だが、そんな冬乃から、何を感じたのか沖田が囁くように言葉を追わせてきた。
「有難う。その返事を聞けてよかった」
(え・・・)
有難う?
どういう意味
沖田をまっすぐ見つめ返してしまった冬乃に、だが沖田はそれ以上なにも言わず踵を返した。
(・・・て、私が未来からきたって、信じてみようとしてくれてるだけで、ほんとに信じてもらえてるわけじゃないものね・・)
単に、冬乃がどういう対応で返すかを試されただけなのかもしれない。
冬乃はそう納得し。
何にせよ。
(言動には、もっと気をつけないと)
冬乃は反省を胸に、沖田の後を追った。
「あの、」
前川邸の裏戸をくぐった時、冬乃はふと思い出して。
「沖田様はどちらでいつもお寝みになられてるのですか」
沖田が振り返る。
「八木さん家ですよ」
(やっぱり)
「離れ・・ですよね?」
何故知っているのか
とは沖田は尋ねてはこなかった。
「そうです」
「広いのですか・・?」
冬乃は気になっていたことを聞いた。
沖田が微笑って。
「いいや、狭いですよ。何故」
と今度は尋ねた。
「屯所のほうがかなり手狭なかんじだったので・・沖田様はもう少し広いところできちんと休めてらっしゃるのかが心配になって」
冬乃は言いながら、これではまたも好きオーラが出てしまっているような台詞だと、気づいたが、遅い。
沖田は、だが気に留めたふうもなく、
「じゃあ見てみますか」
とおもわず冬乃が瞠目するような言葉を返してきた。
「そこで挨拶を済ませてしまいましょう。皆、朝が早いからそろそろ起き出してる頃だ」
「はい・・!」
期せずして、沖田の寝泊まりしている場所を案内してもらえることになった冬乃が、嬉々とした声を挙げてしまったのは仕方がない。 冬乃の寝泊まりしている長い母屋を通り越して、沖田はそれから会話をするでもなく、まっすぐ離れの建物へと冬乃を連れて向かう。
(結構、離れてるんだ・・)
八木家の敷地の広大さに、今更ながら驚かされる想いで、冬乃は朝の眩い光の中を沖田についてゆく。
やがて離れとおぼしき建物の、角を曲がった時。
男が、縁側で正座をしているのを見とめ。
その横顔に、冬乃ははっとした。
涼やかな顔立ちの、その凛とした佇まいは、
高雅な、とさえ形容しえるほどに。
彼を纏う清涼な空間だけが、切りとられたかのように、そこに在った。
「斎藤、帰ってたのか」
冬乃の前で沖田が、表情を見なくともわかるほどに嬉しそうな声をかけて、
冬乃は、その呼びかけから彼が斎藤一であることを知った。
(あの方が)
そして、次の瞬間に、沖田の呼びかけに振り向いた彼の、灯した表情に冬乃はどきりとした。
「沖田か」
よく笑う沖田と対照的で、殆ど笑わない寡黙な剣士として、後世に伝わっている彼が、
今、沖田に対して穏やかに微笑を返したのだ。
「おかえり」
「ああ」
「紹介するよ。彼女は冬乃さん」
「話は聞いている。災難だったようだな」
と、彼の静かな眼差しが、沖田の横まで来た冬乃を向いた。
「いえ、そんな。・・これからよろしくお願いいたします」 「ところで斎藤、疲れてるか?」
話の様子からすると、どこかへ長期の仕事に出ていたのだろうか。
「いや。大丈夫だ」
だが斎藤はなんでもなさそうに返答した。
「そうか。それなら、あとで手合わせ願うよ」
「ああ」
快諾する斎藤に、沖田が微笑った。
「おまえがいないと、なまる」
稽古が。
と言い足した。
冬乃は、あのとき蔵で藤堂にみせたような笑顔と同種の表情を沖田に見とめて。
(そっか・・・)
二人は親友なのだと。
斎藤の、先の沖田へ向けた表情も、親友に対してだからこその。
(それに、お二人は)
好敵手でもあり。
斎藤は沖田と並び、新選組の双璧として後に評される剣豪である。
沖田が気兼ねなく本気を出して稽古ができる唯一の相手、なのではなかろうか。
「で、何故こんなところに座ってんだ?」
と沖田が続いて尋ねたのは尤もだった。
斎藤は今、縁側の板張りにそのまま正座しているのだから。
(脚、痛くないかな・・?)
おもわず心配になる冬乃をよそに、
「朝の空気を吸っていた」
と斎藤がぽつりと返事をして。
「そうか」
と沖田が愉快そうに哂った時、
斎藤の背後の障子が、すらりと開かれた。
「お、斎藤!おまえも帰ってたのか」